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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)527号 判決 1972年7月13日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人大崎孝止の上告理由第一について。

上告人らの指摘する本件土地上の本件建物の所有権を訴外原源一郎が上告人渡綿実業株式会社から代物弁済として取得した旨の原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の認定部分は、上告人渡辺仁三郎が本件土地を含む三〇坪八合につき賃借権を有することを判示するための傍論にすぎないものであるから、この点の論旨は、判決の結論に影響しない判示部分について違法をいうにすぎない。上告人渡辺仁三郎は、(二)の建物につきその妻である訴外渡辺喜代名義で所有権保存登記を経由しているから、右賃借権を被上告人に対抗しうるとの同上告人の主張を排斥した原審の判断は、正当として是認することができる(最高裁昭和四四年(オ)第八八一号同四七年六月二二日第一小法廷判決参照)。同上告人の信義則を理由とする対抗力に関する主張を排斥した原審の判断も、原審の確定する事実関係のもとにおいては、正当として是認することができる。上告人渡辺仁三郎と山田源次との間の話し合いについての所論指摘の原審の認定は、挙示の証拠関係に照らして是認することができる。その他、原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。

同第二について。

本件建物の所有権は、即決和解に基づいて原源一郎に移転した旨の原審の認定は、挙示する証拠関係およびその説示に徴し、首肯することができ、原判決に所論の違法は認められない、論旨は、ひつきよう、原審の認定しない事実をも合わせ主張して、原審の専権に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、上告理由第一について、裁判官大隅健一郎、同下田武三の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

上告理由第一についての裁判官大隅健一郎の反対意見は次のとおりである。

上告人渡綿実業株式会社の上告を棄却することについては、異論はないが、上告理由第一の論旨も採用することができないとして、上告人渡辺仁三郎の上告をも棄却すべきものとした多数意見には、賛成することができない。

すなわち、被上告人の上告人渡辺仁三郎に対する借地権不存在確認請求事件に関して、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の確定したところによれば、同上告人は、訴外泉名増造が本件土地を所有していた当時、すでに、本件土地を含む三〇坪八合について賃借権を有し、そのうち本件土地を除く部分の地上に(二)の建物を所有し、同人の妻渡辺喜代名義による所有権保存登記を経由しており、一方、被上告人は、その後本件土地の転得者となつたというのである。そうすると、同上告人は被上告人に対し右賃借権をもつて対抗することができたものというべきであり、これと反対の見解に立つ原判決は、同上告人に関する部分にかぎり、破棄を免れないと考える。その理由は、最高裁昭和四四年(オ)第八八一号同四七年六月二二日第一小法廷判決において述べたとおりであるから、これをここに引用する。

裁判官下田武三は、裁判官大隅健一郎の反対意見に同調する。

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一)

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